掛軸の修正をお受けするにあたり、本日は掛軸についてお話しします。
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掛軸とは
掛軸とは、書や日本画を裂(きれ)や紙で表装して、床の間などに掛けて鑑賞するものです。掛物とも呼ばれます。日本の室内装飾では重要な役割を果たしています。
床の間の重要性
古くより台所は奥様の顔、床の間はおとこの顔(御主人の顔)と言われており、床の間はお家の大黒柱を表す重要な場所とされております。その床の間を飾る掛軸も当然重要でございます。
また風水の世界では、せっかく床の間があるにも関わらず何も飾っていない「空床」は縁起が悪く、お家の運気を下げると言われております。新築にて床の間がある場合は、必ず掛軸をお掛けいただくことをお勧めいたします。(内容に関わらず)
和室に仏壇を置かれておみえになるご家族が多く、ご先祖様・仏様を拝み、手を合わす神聖な場所になります。お客様をお迎えする重要でもございます。
掛軸は中国から伝わったと言われておりますが、和室(床の間)は日本人が構築してきたもので、神聖な場として、お客様をもてなす演出の場として、家族が集まる温かい場として重要な場所になっております。
四季折々の花鳥の図やお祝い図または、仏事行事軸など行事や季節に合わせてお掛けください。
掛軸の産地
岐阜県は掛軸の生産高が日本一です。その理由として岐阜県には清流木曽三川(長良川・木曽川・揖斐川)が流れ、その清流を利用した美濃和紙と蚕養殖の盛んな各務原で採れる絹。美濃和紙を利用した岐阜提灯や上質の土を利用した陶磁器には絵付師が集まりました。和紙と絹の材料産地に絵付師の職人技が融合することにより、岐阜には掛軸という美術工芸品の流れができました。
掛軸の歴史
平安時代(794~1185)
日本の掛軸の最も原型となる様式は中国から渡来しました。中国では晋の時代頃、仏教系の絵画が布教の為に多く描かれ、「掛けて拝する」事に用いられ礼拝用の意味合いが強くあったといわれます。それらの絵画は持ち運びの際の破損を避けるために、巻物に加工されるようになりました。そして唐の時代頃には、現在に近い表装の形式が用いられるようになりました。我が国には平安時代、藤原氏全盛の頃に、このような表装の形式が伝わったとされ、曼荼羅図などの仏画に表装が施されるようになり、掛軸は仏教の仏画用に普及を始めました。
鎌倉時代(1185~1333)
鎌倉時代後期に禅宗の影響による水墨画の流行から掛軸も流行していきました。この流行により、掛軸は「掛けて拝する」仏教仏画の世界から、花鳥風月の水墨画など独立した芸術品をさらによく見せる調度品として発達しました。
室町時代(1336~1573)
室町時代以降「茶の湯」の席で座敷の「床の間」にも水墨画の掛軸が多く見られるようになりました。この時代に、我が国の建築様式は独自の発展を遂げ、「床の間」が室内の中心的装飾空間であると考えられるようになりました。「床の間」という空間の概念は、他の国に類を見ない、日本独自のものです。そして、床の間には装飾品として掛軸が掛けられました。床の間とは、決して別格の施設ではなく、芸術と生活を結び付ける、日常的な空間だったのです。
安土桃山時代(1568~1603)
言うまでもなく、この時代を代表する人物は織田信長と豊臣秀吉です。彼らは非常に茶の湯を好んだ為、茶の湯は大流行しました。千利休が掛軸の重要性を言葉にするようになると、茶を愛する人々により掛軸が爆発的に流行するようになりました。茶の湯は通常、床の間で行われました。そして、茶の湯のスタイルの確立とともに、床の間様式もまた発展し、そこに飾られる掛軸もより精錬されたものが用いられるという好循環を生んだのです。掛軸については、来客者、季節、昼夜の時間を考慮して掛軸を取り替える習慣が生まれ、来賓時その場面の格式などを掛軸で表現することが重要視される考え方が生まれました。
江戸時代(1603~1867)
この時代は大きな戦がほとんど起こらず、全般的にみて平和な時代だった為、様々な文化が爛熟期を迎えました。多くの絵師たちが活躍し、掛軸も庶民の間に一段と普及しました。それと同時に表具の技術技巧が著しく発展を遂げました。18世紀には、江戸を中心とする狩野派とは別軸で京都画壇が栄え、日本画も楽しむという価値観をもった人々に支持され、掛軸もそれにつれ芸術価値を高めていきました。
明治時代以降(1868~)
明治維新以降、職業の選択が自由となったためか、より多くの絵師たちが腕を競い合います。また、第二次世界大戦前までおよび戦後しばらくの間、日本画はほとんど掛軸にして楽しまれてきました。このような理由から、私たちは現在、非常に質の高い掛軸を身近に多く見ることができるのです。
普段、家庭にある床の間の掛軸を何気なくみて鑑賞していましたが、由来、流れを聞いて掛軸の持つ大切さを再認識した次第です。
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